【留学体験記】僕を変えたタイ、バンジャムルン 第3章忘れられない出来事

2012年11月2日
 

人生で最も濃密な時間を過ごしていたこの期間、忘れられない出来事がいくつかあった。

 

「カンボジアから来たディーン」

 

ディーンは、カンボジアから出稼ぎにきていた15歳の少年。コミュニティーセンターで観光客に出す食事の配膳や、後片付け、草刈などの力仕事を担当していた。僕より半年早く村に来て、タイ語は少ししか話せなかった。そんなディーンが、センター内で一番歳が近かったから、僕は自然と彼と仲良くなりたいと思った。けれど話は噛み合わず、反応も薄くてあまり好意的に受け止められていないのかと感じていた。

 

しかし、センターの仕事が早く終わったある日の午後3時。いきなりプンさんが「海に行こう」と言い出し、観光用のバスで近くの海まで行ったときのことだった。夏真っ盛りで暑く、一緒に来ていた村の子どもたちは海に着くなり浜辺に向かって駆け出した。でも、ディーンは独りぼっち。センターでも、毎日、孤独に仕事だけをこなしているようだったし、友だちと呼べるような歳の子どもも村ではあまり見かけなかった。今しかないと思った。彼に心を開いてもらいたい一心で、彼の名前を呼んでから波に向かって石を投げた。石は波の間をピョンピョンと3回ぐらい跳ねたところで、後ろから「スッジョーイ!!(すごい!みたいな感じ)」と楽しそうな叫び声が聞こえた。そして、僕は心の中でガッツポーズ。密かな得意技の水切りが人生初めて活きた瞬間だった。

 

それ以来、プンさんの次に一緒にいる時間が長い大事な友だちになった。毎日、一緒に仕事をして、休みの間は、センターの裏にある庭でこっそりフルーツを食べたり、木の枝と木の実で野球したりして遊んでいた。一緒に何かを共有するって、人と人との関係が深まる上でとても大事だと思ったし、そんな感情って万国共通だということが本当によくわかった。

 

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「パンケーキ」。

 

ディーンと似たような話がもう1つあった。それは、プンさんの娘のパンケーキ(ニックネーム)の話だ。5歳の彼女は両親がセンターで働いているため、近くの保育園に通い、昼過ぎからはセンターで毎日過ごしている。周りにそんな子どもはほとんどいない。いつも、お母さんについてまわるか、独りで遊んでいた。

 

僕が声を掛けても、知らんぷり。最初は人見知りなのかと思っていた。しかしある日、プンさんの家でご飯をご馳走になったあと、懲りずにパンケーキと遊んでやろうと思い、ちょっかいをかけてみた。そしたら、今までと正反対でとても仲良く接してきてくれた。あげくの果てには、お母さんに怒られるまでおままごとに付き合わされた。よくよく考えてみると、今回は遊ぼうと思ってパンケーキの近くに行こうとした。彼女は一緒に遊んでくれる友だちが、ただ欲しかったのだと思う。相手の求める関わり方を考えることも重要だと気づかされた瞬間だった。

 

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ディーンにしろ、パンケーキにしろ、僕のとった行動の次の瞬間に表情がまるっきり変わった一瞬が忘れられない。

 

住民に対するプレゼンの話。

 

大槻先生に課せられた課題の1つが、住民の方に対する自分の観点で作ったコミュニティーマップのプレゼンテーションだった。センターのリーダーにお願いをして、住民の方の一部に集まってもらい発表した。その日は、僕が日本へ帰る3日前。ここでの生活で何を学んだのかを発表する場となった。そこで僕が発表したものは、「バンジャムルンがここまで頑張ってきた秘訣」・「バンジャムルンの良いところ」・「新しい商品提案」の3つ。つたない英語をプンさんに訳してもらいながら、なんとか発表をやりきった。プレゼン中の真剣に聞いてくれている様子と、終わった直後の暖かい拍手に泣き出しそうになった。

 

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1ヶ月も住めば楽しいことばかりではなく、想いも英語もまとまらず、逃げ出したい気持ちを抑えながら暇を見つけてはパソコンやノートと格闘してきた。しかし、そのおかげでバンジャムルンだけでなく、自分がこれまで大学生活でやってきたことを整理することにもつながった。3年間、「地域」というキーワードに惹かれいろいろなことに挑戦し、そのどれもが単発でつながりがないように感じてきたけど、1つの「地域」を深く見たことで、これまでの経験が全て一つの軸の中にあったことだと認識できたのだ。それらの想いがこみ上げて来たこと。今回のプレゼンでなんとか地域に還元できる何かを作りたいと思い、作ったプレゼンをやり切ることができたこと。本当に嬉しかったのだ。

しかし、その後、プンさんから「アイデアは良いけど、みんな(住民)は今のやり方に満足している。もしユキがここにずっと住むなら、ユキの提案は現実になるかもしれないよ」と言われ、やっぱり地域に入るって難しいことだよなと改めて思った。

 

ここで書いたのは、忘れられない出来事のほんの一部分。書き出すと止まらないだろう。それは、自分が「ここで何かを得て帰る」「ここにいる人々と触れ合いたい」と素直に、強く思っていたからだと思う。日本での生活のように、いろいろなものを同時進行させて考えなくても良い環境であり、期限付きだからそう思えた部分もあるのだろうけど。それでも、一つ一つの出会いや行動が新鮮で、大きな学びにつながっていったことは間違いない。

 

そんな生活のおかげで、短期間でも僕のバンジャムルンに対する愛着はとても深まった。次は課題とか勉強のつもりでなくて、ただそこへ行き、ご飯を食べ、話がしたいと思う。

 

 (第4章へ続く) 

                            人文学部4年 有田悠樹

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